エッセイ・コラム
Essays & Columns
日本型ダイバーシティ・マネジメントの模索
ダイバーシティ・ストラテジーズ(株)(クアラルンプール)代表
河谷隆司 Kawatani, Takashi

初出:『グローバル経営』2001年3月号・日本在外企業協会

米国の多様性運動が国際経営分野で目立ち始めたここ10数年の間、米国は組織変革や情報技術革命などで産業構造の転換をしただけではなかった。着々と「米国民が持っている多様性(diversity)」こそが生産性向上の最後の砦だという意識に覚醒したのである。 

そして「多様性こそが米国企業が欧州と日本勢に勝てる米国ならではの強み」(J. Fernandez『多様性優位』)だとして、建国以来の社会理念である多様性を競争力の視点から再定義し、戦略的に活用しようとしているのが一連のダイバーシティ運動だと筆者は見ている。

ダイバーシティ・サミット 

そんな関心から、昨年4月にワシントンで開かれた「Diversity Summit」なるカンファランスと、企業の多様性担当者の会員制会議である「Global Diversity Roundtable」に参加したが、ここではサミットでの発見を報告したい。

  1. 参加企業はShell Oil、Mercedes-Benz USA, Toyota Motor Sales U.S.A., General Motors, Chevron, AT&Tなど大手企業と、多様性の実践で知られるErnst & Youngなどのコンサルティング機関のダイバーシティ担当者が中心であった。

  2. ダイバーシティと聞いて最初にアメリカ人が想起するのは「人種と性」(race & gender)である。実際、参加者の7割近くが女性とマイノリティと見受けられた。

  3. 2040年までにマイノリティが全人口の半数以上になり、1994年から2005年までの新規就労者の約87%が女性やマイノリティになると米労働省は予測している。また6歳以下の子を持つ女性の60%以上が仕事を持っていて、彼らは家庭と仕事の両立策を実施している企業を求めている(米労働省女性局)ということからも、人種と性が当面の関心事であることは時代の要請だ。
  4. カバーされている地理的範囲は、北米であり、極めて北米的な色彩が濃い。グローバル・ダイバーシティは未開発である。数少ない欧州からの参加者(Daimler Chrysler)は、多様性プログラムの導入に際してダイバーシティという概念が北米的で欧州に馴染まないとして「人権、寛容さ、機会均等をどう勝ち得るか」と意訳したという。

  5. 大手企業の多くはDiversity ManagerやNational Director-Corporate Diversityなどのマイノリティの女性を中心とした多様性専門の役職をおき、多くはトップ直轄としている。彼らの合言葉は”Business Case”。すなわち、いかに多様性がボトムラインにつながるかを売り込み、様々な施策への支援者を増やすかに腐心している。多様性プログラムはEEOと異なり組織変革を伴うから、社内の様々な階層の受け入れムードなしには不可能だからだ。

  6. 具体的な多様性プログラムには以下の施策が含まれる。集合研修形式のダイバーシティ訓練、施策実施の根回しとしての多様性委員会、従業員意識調査、非白人居住区への地域活動、託児所整備・カウンセリング・ワークシェアリングなどwork-life balanceの福利厚生策、部下の人種・性別の多様性実現度をボーナスに反映させる評価制度、エスニック市場に特化したマーケティング戦略等々。
一言で言えば、多様性プログラムとは、多様な個性を持つ個人のニーズこそが創造力の源泉であるという前提に立っている。人間のもつあらゆる違いを受け入れる風土を作り、それによって個の創造性を最大限引き出し、組織の活性化と収益につなげるというものである。
多様性戦略とボトムラインの関係

多様性が企業利益に直結する局面は以下の通りである。

  1. 採用と定着の促進

  2. 労働者の多様性はより多様な雇用形態を意味する。多様性にやさしい職場環境の整備は、有能な人材の確保と定着につながり、採用・定着コストの削減につながる。
  3. 組織の問題解決力・創造性の増大

  4. 多様な労働者が職場に持ち込む着想や視点は、組織の問題解決能力と創造性を飛躍的に向上させる。新しい組織知が創造され、ニュービジネスの芽が芽吹く。
  5. 多文化市場へのマーケティング

  6. 年間1兆ドルに近づくマイノリティ市場に参入するには、市場ニーズをつかむことのできるマイノリティ社員が一番である。販売・マーケティング部門の人種構成を市場や顧客の人種構成を反映したものにする企業も現れ、Ethnic Marketing Managerなるポジションもある。
  7. 戦略的提携能力の強化

  8. 多文化間のリーダーシップ能力とコミュニケーション能力が高まるので、国内外の研究開発、戦略的提携、M&A、サプライヤー管理、バーチャル組織運営がしやすくなる。
  9. 企業価値の増大

  10. 環境対策を含め、より公正で、倫理基準を持った企業が好まれるようになっているが、ダイバーシティ・プログラムを実践する企業もステークホルダーの信頼を集めることになる。
    (Diversity Strategies Sdn Bhd・河谷隆司作成・2001)
日本型への模索

グローバル経営の視点で見れば、アメリカ人にとり最も身近な非主流集団であった女性とマイノリティを正面から取り上げる米企業は、知らずして真のグローバル化に必要な組織学習を実践していると言えよう。社内に多様性なくして、社外の多様性を管理できる道理は無いからだ。 

では日本企業の風土の中で多様性を促進する教育や施策は可能なのだろうか?
筆者はアセアンの日系企業へマネジメント訓練を実施しているが、ある現地人幹部から「私は日本人から犬のように叱られました」と言われ頭を抱え込んでしまった。自分の思いが伝わらない相手に対して怒りを爆発させる人に、多様性を尊び、そこから学ぼうとする世界観を読者ならどう教えるか? 

ある米国人は「ダイバーシティ訓練で違いを教えるほどに、人々が互いを尊敬するようになるのです」と私に語ってくれたが、アジアで日々接する日本人の現実の行動とは余りにも対照的な一言であった。米国流の「人本主義」とも言えそうな多様性アプローチと、日本企業の「人の経営」。どちらが人に優しいのか?――日本型経営の再構築の推移を注視しながら、見守っていきたいテーマだ。

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